
かわいいものを見ると噛みたくなる、握りしめたくなる感情
本日はかわいい子供や動物を見るとつい噛みたくなる、握りしめたくなる感情(キュートアグレッション)についての説明、脳内メカニズムについて調べた論文を紹介します。
タイトル:“It’s so cute I could crush it!”: Understanding neural mechanisms of cute aggression.
著者:Stavropoulos KK.M and Alba LA
雑誌:Frontiers in Behavioral Neuroscience. 2018;12:1-15.
研究の背景
かわいいものへの攻撃性とは、危害を加えたい、傷つけたいという願望がないにも関わらず、かわいいものをつねったり、握りしめたり、噛んだりしたくなる衝動と定義されており、「Cute aggression(キュートアグレッション): かわいいものへの攻撃性」と呼ばれています。
過去の実験でキュートアグレッションは、嬉しい、楽しい感情と攻撃性の発現との間に関係があることが明らかになっています1)。例えば、一般的に感情の表現は、幸せな時には笑顔、悲しい時には泣きますが、悲しい時は笑う、嬉しい時は泣くという人がいます。このキュートアグレッションはその一種であると言われており、愛情表現を伝える複雑に重なり合った感情であると報告されています2,3)。そして、キュートアグレッションはかわいいものに対する脳の防御反応であると言われています。
しかし、キュートアグレッションの脳内メカニズムは明らかにではありません。本研究は脳波を用いてキュートアグレッションに関連する成分を測定しました。
方法
・被験者は18-40歳の54名でした。
・被験者には「かわいい赤ちゃん」「かわいくない赤ちゃん」「かわいい赤ちゃんの動物」「かわいくない大人の動物」の写真をそれぞれ32枚、合計128枚を見せたときの脳波を測定しました。
・また、それぞれの写真に対してどれくらいの可愛さを感じたのか1-10段階で評価し、その写真を見てどう感じたのかを回答させました。
結果
・参加者のうち、過去にかわいい動物を見て握りしめたいと感じた人は64%、噛みつきたいと感じた人は28%でした。
・そして、実験中の写真を見てかわいい動物に握りしめたいと感じた人は74%、かわいい赤ちゃんを見て握りしめたいと感じた人は60%でした。特に、かわいい動物の赤ちゃんを見た時にキュートアグレッションが発現することが明らかになりました。
・図1はかわいい赤ちゃん・動物を見た時とかわいくない赤ちゃん・動物を見た時の脳波を示しています。

かわいい赤ちゃん・動物を見た時のN200の振幅が大きくなることが明らかになりました。また、キュートアグレッションと報酬系の反応に強い相関が明らかになりました。つまり、かわいい動物を握りしめたいと思えば思うほど、報酬系の活動も高くなることを意味しています。
まとめ
・本研究では、キュートアグレッションの脳内メカニズムを明らかにすることでした。
・キュートアグレッションはかわいい動物を見たときに起こりやすいことが明らかになりました。また、キュートアグレッションの感情が強いほど、報酬系の活動が高くなることが明らかになりました。
・キュートアグレッションは報酬系と強く関係しており、報酬系を抑制するための脳の調節機能ではないかと考えられます。
参考文献
- Aragón, O. R., Clark, M. S., Dyer, R. L., and Bargh, J. A. (2015). Dimorphous expressions of positive emotion: displays of both care and aggression in response to cute stimuli. Psychol. Sci. 26, 259–273.
- Aragón, O. R. (2017). “Tears of joy” and “tears and joy?” personal accounts of dimorphous and mixed expressions of emotion. Motivat. Emot. 41, 370–392.
- Aragón, O. R., and Bargh, J. A. (2018). So happy i could shout and so happy i could cry dimorphous expressions represent and communicate motivational aspects of positive emotions. Cognit. Emot. 32, 286–302.