医療従事者・研究者用ノート

感情のネットワーク

私たちは辛いことや苦しいことがあったときに「この経験が将来に役立つ」や「この辛さは一生続くこととではない」と自分に言い聞かせた経験は誰しもあるかと思います。

または、誰かに嫌なことを言われたときに感情を抑えたこともあるかと思います。

この自分に言い聞かせているときと感情を抑えているときでは脳の活動が異なる(使っているネットワークが異なる)ことがわかってきました。

本日は、言い聞かせているとき(再評価)と抑えているとき(抑制)の脳内ネットワークについて調べた研究を紹介します。

タイトル:Functional coupling of the orbitofrontal cortex and the basolateral amygdala mediates the association between reappraisal and emotional response.

著者:Gao W, Biswal B, Chen SD, Wu X, Yuan J.

雑誌:NeuroImage. 2021:117918.

研究の背景

扁桃体は感情に重要な領域であるが、扁桃体核はそれぞれ異なる機能を持っている1,2)。扁桃体は基底外側複合体(BLA)と中心核(CMA)から構成されており、それぞれ感情情報の入力処理と行動反応の生成に重要な役割を果たしている3)。さらに、基底外側複合体は感情情報の評価4)、感情刺激と刺激に対する行動が適切であったかの関連性の調節5)、感情経験の記憶処理6)に関与している。中心核は感情反応の生成、調節および制御に関与しており7)、中心核の不活性化は感情表現の障害をもたらすことが明らかになっている8)

この扁桃体と前頭前野、感覚運動関連領域、線条体や注意領域との機能的結合が情動発現に重要であり、これらの機能的結合の障害が情動障害に関連していることが明らかになってきている9)。例えば、感覚領域、線条体、注意領域との機能的結合の障害では不安症や心的外傷後ストレス障害に関連している10,11)

しかし、前頭前野領域と扁桃体小領域(基底外側複合体と中心核)が情動調節にどのように関与しているかは明らかでない。

本研究は、前頭前野領域と扁桃体小領域の機能的結合が情動調節にどのように寄与しているかを調べた。

方法

・被験者は健常者50名(女性:24名、平均年齢:21.52±1.89歳)とした。

・感情を評価する質問紙は感情調節尺度(Emotion Regulation Questionnaire (ERQ))を用いた。この評価は6項目の再評価尺度と4項目の抑制尺度から構成されている。

・被験者に中立的な絵とネガティブな絵を見せているときにfMRIを撮像した。

結果

・図1はネガティブな写真を見せたときに本当にネガティブな感情が誘発されているのかを示している。

図1

ネガティブな写真を見せたときは中立的な写真を見せたときよりも両側の扁桃体が活動し、感情反応スコアでもネガティブ感情が誘発された。

・図2はネガティブ感情時の機能的結合と機能的結合と質問紙スコアの相関を示している。

図2

扁桃体の基底外側複合体は背外側前頭前野、背側前帯状皮質、眼窩前頭皮質との機能的結合が認められ(図2A)、特に基底外側複合体と眼窩前頭皮質の機能的結合は質問紙との相関関係において再評価スコアと関連していることがわかった(図2C)。

扁桃体の中心核は背外側前頭前野、角回、下頭頂小葉との機能的結合が認められ(図2B)、特に中心核と背外側前頭前野の機能的結合は質問紙との相関関係において抑制スコアと関連していることがわかった(図2D)。

まとめ

・本研究は、前頭前野と扁桃体小領域の機能的結合が情動調節への影響を調べた。

・扁桃体小領域は情動調節において異なる前頭葉領域と機能的結合をしていることが明らかになった。特に基底外側複合体は眼窩前頭皮質と再評価に関連しており、中心核は背側前頭前野と抑制に関連していた。

一般向け解釈

・冒頭で説明した辛いことや苦しいことがあったときなどに「この経験が将来に役立つ」や「この辛さは一生続くこととではない」と自分に言い聞かせた経験は感情においては再評価になります。

今回の結果から感情に重要な扁桃体の基底外側複合体と前頭葉(脳の前の部分)の眼窩前頭皮質が再評価に関連していたということになります。

このネットワークの機能が低下することで不安症やトラウマになりやすくなります。

・一方で抑制は、他人から嫌なこと言われたり、イライラする出来事があったときに感情を抑えることが抑制になります。

今回の結果から扁桃体の中心核と前頭葉の背側前頭前野が抑制に関連していたということになります。

このネットワークの機能が低下することで怒りやすくなります。

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参考文献

  1. Morris, J. S., Buchel, C., & Dolan, R. J. (2001). Parallel neural responses in amygdala subregions and sensory cortex during implicit fear conditioning. Neuroimage, 13(6 Pt 1), 1044-1052.
  2. Kim, M. J., Loucks, R. A., Palmer, A. L., Brown, A. C., Solomon, K. M., Marchante, A. N., & Whalen, P. J. (2011). The structural and functional connectivity of the amygdala: from normal emotion to pathological anxiety. Behav. 2011.04.025 Brain Res, 223(2), 403-410.
  3. Danilo, B., Laird, A. R., Karl, Z., Fox, P. T., & Eickhoff, S. B. (2013). An investigation of the structural, connectional, and functional subspecialization in the human amygdala. Human Brain Mapping, 34(12), 3247-3266.
  4. Brown, V. M., LaBar, K. S., Haswell, C. C., Gold, A. L., McCarthy, G., & Morey, R. A. (2013). Altered Resting-State Functional Connectivity of Basolateral and Centromedial Amygdala Complexes in Posttraumatic Stress Disorder. Neuropsychopharmacology, 39(2), 351-359.
  5. Nasser, H. M., Lafferty, D. S., Lesser, E. N., Bacharach, S. Z., & Calu, D. J. (2017). Disconnection of basolateral amygdala and insular cortex disrupts conditioned approach in Pavlovian lever autoshaping. Neurobiology of Learning & Memory, 147, S1074742717301958. 
  6. Yoon, H. J., Jin, S. K., Shin, Y. B., Choi, S. H., Lee, S. K., & Kim, J. J. (2016). Neural activity during self-referential working memory and the underlying role of the amygdala in social anxiety disorder. Neuroscience Letters, 627, 139-147.
  7. Danilo, B., Laird, A. R., Karl, Z., Fox, P. T., & Eickhoff, S. B. (2013). An investigation of the structural, connectional, and functional subspecialization in the human amygdala. Human Brain Mapping, 34(12), 3247-3266.
  8. Nicholson, A. A., Densmore, M., Frewen, P. A., Théberge, J., Neufeld, R. W., Mckinnon, M. C., & Lanius, R. A. (2015). The Dissociative Subtype of Posttraumatic Stress Disorder: Unique Resting-State Functional Connectivity of Basolateral and Centromedial Amygdala Complexes. Neuropsychopharmacology Official Publication of Neuropsychopharmacology, 40(10), 2317.
  9. Aghajani, M., Colins, O. F., Klapwijk, E. T., Veer, I. M., Andershed, H., Popma, A., Nj, V. D. W., & Vermeiren, R. R. (2016). Dissociable relations between amygdala subregional networks and psychopathy trait dimensions in conduct-disordered juvenile offenders. Human Brain Mapping, 37(11), 4017-4033.
  10. Liu, W. J., Yin, D. Z., Cheng, W. H., Fan, M. X., You, M. N., Men, W. W., Zang, L. L., Shi, D. H., & Zhang, F. (2015). Abnormal Functional Connectivity of the Amygdala-Based Network in Resting-State fMRI in Adolescents with Generalized Anxiety Disorder. Medical Science Monitor International Medical Journal of Experimental & Clinical Research, 21, 459-467.
  11. Qin, S., Young, C. B., Duan, X., Chen, T., Supekar, K., & Menon, V. (2014). Amygdala Subregional Structure and Intrinsic Functional Connectivity Predicts Individual Differences in Anxiety During Early Childhood. Biological Psychiatry, 75(11), 892-900.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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