
注意のコントロール
私たちは携帯に集中しているとき、携帯の画面に注意を向け、それ以外の音や視覚情報に注意を向けないようにしています。つまり、注意をコントロールするためには携帯に注意を向ける力と他の刺激を抑制する力の2つが必要になってきます。
本日は、この2つの力をコントロールしている脳領域と脳内ネットワークを示した論文を紹介します。
タイトル:Differential attentional control mechanisms by two distinct noradrenergic coeruleo-frontal cortical pathways.
著者:Bari A, Xu S, Pignatelli M, Takeuchi D, Feng J, Li Y, Tonegawa S.
雑誌:PNAS. 2020;117(46):29080-29089.
研究の背景
私たちは朝起きて寝るまで常に目標を達成するために行動しています。例えば、料理を作る、電車に乗る、人の話を聞く、本を読むなどこれらの目標を達成するために私たちは動いています。そして、これらの目標を達成するために脳内では無意識に行動計画と実行が繰り返されています。
これらの行動には注意制御が必要であり、高度で複雑な処理しています。注意を制御するためには注意を向ける処理と他の刺激を抑制する処理の2つの処理が必要になってきます。
注意を向ける処理は目標を達成させるために必要な情報源に注意を向けたり、注意を移動させたりする処理です。
一方で他の刺激を抑制する処理は無関係な刺激から干渉を回避する役割があります。
例えば、人の話を聞くときにその話をしている人の声に注意を向けることと同時にその他の音などを抑制しています。
この2つの処理(注意を向けると他の刺激を抑制する)をコントロールする脳領域は以前の研究から橋にある青斑核であると明らかになっています1,2)。青斑核はノルアドレナリンを放出し、前頭前野のニューロン活動を調節することで注意制御に関与していると考えられています。
しかし、青斑核のノルアドレナリンが前頭前野のニューロン活動を調節している知見は、これまでの研究では因果関係ではなく相関関係でしか示されていませんでした。
そのため、本研究ではマウスが3種類の注意課題を行っているときに光遺伝子的手法を用いて青斑核と前頭前野の因果関係を明らかにすることを目的としました。
方法
・光遺伝学では異なる色の光を照射することで神経活動を活性化したり抑制したりすることが可能です。この技術を用いて青斑核のノルアドレナリン作動性ニューロンの活性化または抑制を行い、マウスの行動を調べました。
・マウスには3種類の注意課題を行わせました。
結果
・青斑核ニューロンを刺激し、活性化させると課題への注意力が高まり、衝動性の低下が見られました。
・一方で青斑核ニューロンを抑制すると注意散漫が増加し、衝動的な反応が増加しました。
・また、注意を向けることと衝動を抑制する2つの反応は青斑核から前頭前野の別々の場所に投射することがわかりました。注意を向けるときは背内側前頭前野に投射され、抑制するときは眼窩前頭皮質腹外側部に投射することがわかりました。
まとめ
・本研究は、青斑核と前頭前野の因果関係を明らかにすることでした。
・青斑核を活性化すると注意力が高まり、逆に青斑核を抑制すると注意散漫になることがわかりました。
・また、注意力が高まるときは青斑核-背内側前頭前野の回路、衝動を抑制するときは青斑核-眼窩前頭皮質腹外側部の回路があることはわかりました。これら2つの回路が協調的に働き注意をコントロールしていることが考えられます。
・これらの知見は注意欠損・多動性障害(ADHD)の病態の解明や治療の発展に貢献できると考えられます。
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参考文献
- G. Aston-Jones, J. D. Cohen, An integrative theory of locus coeruleus-norepinephrine function: Adaptive gain and optimal performance. Annu. Rev. Neurosci. 28, 403–450 (2005).
- S. J. Sara, S. Bouret, Orienting and reorienting: The locus coeruleus mediates cognition through arousal. Neuron 76, 130–141 (2012).