医療従事者・研究者用ノート

注意ネットワークが運動抑制能力を予測する

私たちは目的の動作を遂行しようとしている直前でその動作を止めることができます。

例えば、横断歩道を渡ろうとしている時に車が来たから歩くのと止めます。

スポーツの場面でも動作を止める能力は重要です。野球のバッターはボールだと判断したらスイングを止める必要があります。

このように運動を停止させる(運動抑制)能力は生活に重要です。

本日は、個々の運動抑制能力は注意ネットワークの接続性で予測できることを明らかにした論文を紹介します。

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タイトル:Between-module functional connectivity of the salient ventral attention network and dorsal attention network is associated with motor inhibition.

著者:Hsu HM, Yao ZF, Hsieh S.

雑誌:PLoS ONE.2020:1-15.

研究の背景

私たちは目的の行動を達成するためには不適切な行動を抑制し、適切な行動を選択することが重要である。そのため、行動を抑制する能力を評価することは重要である1)

研究ではこのような抑制能力を評価するためにストップシグナル課題(Stop-Signal Task: SST)が使われる2)。この課題はGo刺激を実行している最中にStop刺激が一定の割合で提示され、ストップまでの時間を算出することで運動抑制を評価するものである3)

この運動抑制が低下する疾患は注意欠陥多動性障害(ADHD)や薬物依存症が知られており、健常な高齢者でも見られる4,5)

脳画像研究では、運動抑制に関連する脳領域として、右下前頭皮質6)、右下前頭弁蓋部7)、視床下部や基底核の皮質下領域8)、運動前野9)が知られている。

しかし、脳内ネットワークが運動抑制の個人差を説明できるかは明らかでない。

そこで、本研究の目的は脳内ネットワークの結合性およびネットワーク間の結合性が運動抑制のパフォーマンスと関連するかを調べた。

方法

・被験者は健常者141名(女性:67名、平均年齢:46.34±16.18歳)であった。

・被験者はストップシグナル課題の試行と安静時機能的磁気共鳴画像を撮像した。

・17個の脳内ネットワーク(図1)のグラフ理論的特性をネットワーク内の結合性とネットワーク間の結合性を推定し、グラフ理論的特性が運動抑制とどのように関連しているかを重回帰分析による検討した。

図1

結果

・ストップシグナル課題の結果は、go試行では、正答率が90.98%であり、平均反応時間は611.51±9.21msであった。

一方で、Stop試行では、正答率は54.57±0.6%であり、運動をストップするまでの反応時間は219.56±7.02msであった。

・図2はストップシグナル課題のストップまでの反応時間とネットワークまたは間の結合性の相関関係を示している。

図2

個々の運動抑制能力を最も予測できたのはサリエンシーネットワークと腹側注意経路間の結合性と背側注意経路の結合性であった。

まとめ

・脳内ネットワークの結合性およびネットワーク間の結合性が運動抑制のパフォーマンスと関連するかを調べた。

・運動抑制能力はサリエンシーと腹側注意経路間の結合性と背側注意経路の結合性によって最も予測できることが明らかになった。

・以前の運動制御に関連するネットワークを調べた研究では前頭-帯状-頭頂ネットワークが重要であるという報告がある10,11,12)。本研究のサリエンシーネットワーク、腹側注意経路、背側注意経路の各脳領域はこの前頭-帯状-頭頂ネットワークの脳領域を含んでいることからこれらのネットワーク内および間の相互作用も運動制御に重要であることが示唆された。

参考文献

  1. Aron AR. The neural basis of inhibition in cognitive control. Neuroscientist. 2007; 13(3):214–28.
  2. Verbruggen F, Logan GD, Stevens MA. STOP IT: Windows executable software for the stop-signal paradigm. Behav Res Methods. 2008; 40(2):479–83.
  3. Jaekel J, Eryigit-Madzwamuse S, Wolke D. Preterm Toddlers’ Inhibitory Control Abilities Predict Atten- tion Regulation and Academic Achievement at Age 8 Years. J Pediatr-Us. 2016; 169:87.
  4. Nigg JT. Is ADHD a disinhibitory disorder? Psychological Bulletin. 2001; 127(5):571–98.
  5. Zhang YH, Zhang S, Ide JS, Hu SE, Zhornitsky S, Wang WY, et al. Dynamic network dysfunction in cocaine dependence: Graph theoretical metrics and stop signal reaction time. NeuroImage-Clin. 2018; 18:793–801.
  6. Levy BJ, Wagner AD. Cognitive control and right ventrolateral prefrontal cortex: reflexive reorienting, motor inhibition, and action updating. Ann Ny Acad Sci. 2011; 1224:40–62.
  7. Cai W, Ryali S, Chen T, Li CS, Menon V. Dissociable roles of right inferior frontal cortex and anterior insula in inhibitory control: evidence from intrinsic and task-related functional parcellation, connectivity, and response profile analyses across multiple datasets. J Neurosci. 2014; 34(44):14652–67.
  8. Li CSR, Yan P, Sinha R, Lee TW. Subcortical processes of motor response inhibition during a stop signal task. Neuroimage. 2008; 41(4):1352–63.
  9. Duann JR, Ide JS, Luo X, Li CR. Functional Connectivity Delineates Distinct Roles of the Inferior Frontal Cortex and Presupplementary Motor Area in Stop Signal Inhibition. J Neurosci. 2009; 29(32):10171–9.
  10. Seeley WW, Menon V, Schatzberg AF, Keller J, Glover GH, Kenna H, et al. Dissociable intrinsic con- nectivity networks for salience processing and executive control. J Neurosci. 2007; 27(9):2349–56. 
  11. Hu S, Chao HHA, Zhang S, Ide JS, Li CSR. Changes in cerebral morphometry and amplitude of low-frequency fluctuations of BOLD signals during healthy aging: correlation with inhibitory control. Brain Struct Funct. 2014; 219(3):983–94.
  12. Tian LX, Kong YZ, Ren JJ, Varoquaux G, Zang YF, Smith SM. Spatial vs. Temporal Features in ICA of Resting-State fMRI—A Quantitative and Qualitative Investigation in the Context of Response Inhibition. PLoS One. 2013; 8(6).

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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2021年3月18日