医療従事者・研究者用ノート / 一般向けノート

無能な人ほど自分の能力を過大評価する

シェイクスピアの名言で「愚か者は己を賢いと思うが、賢者は己が愚かなことを知っている」がありますが、この名言のことをダニング=クルーガー効果と言います。

つまり、無能な人ほど自分を過大評価し、有能な人ほど自分を過小評価する傾向にあります。

本日は、ダニング=クルーガー効果についての簡単な説明と両者の脳活動について調べた研究を紹介します。

タイトル:Neural correlates of the Dunning-Kruger effect.

著者:Muller A, Sirianni LA, Addante R.

雑誌:Eur J Neurosci. 2021; 53(2): 460-484.

研究の背景

ダニング=クルーガー効果とは、課題(例えばテストなど)のパフォーマンス(例えば点数)が低い人は自分のパフォーマンスを過大評価し、逆に課題のパフォーマンスが高い人は自分のパフォーマンスを過小評価する傾向にあるという現象です。

また、この現象は個々に起こるものではなく集団でも起こりえます。例えば、タイタニック号は沈没しないと誤信したことで多くの命が奪われました。現代では新型コロナウイルスもその一例です。新型コロナウイルスが大流行する前に世界保健機関、多くの各国の政府、メディアがパンデミックを管理する能力を過大評価し、世界への影響を過小評価した事が指摘されています(これが全てではないですが)。

では、なぜ課題パフォーマンスが低い人は自分を過大評価してしまうのでしょうか?

この効果を提唱したDunningとKrugerは以下のように説明しています1)

課題パフォーマンスが低い人はメタ認知(自分自身を客観的に認知する能力)の欠如または二重無知によるものである。つまり、低成績者は課題を正しく行うために必要な方法についての知識を持っておらず、自分の答えが間違っていることを知らないために、自分は良いパフォーマンスをしていると信じていることと説明しています。もっと簡単に言えば、何が間違っているのかわからないため、それが間違っていることにも気づかないということになります。

しかし、自分を過大評価する人と過小評価する人の脳内メカニズムは明らかではありません。

本研究では、ダニング=クルーガー効果を誘発する認識テストの方法を考案するとともに脳波を用いて記録しました。

方法

・被験者は61名(女性48名)であったが、解析可能データは行動データが56名、脳波データが54名でした。

・行動データは先行研究で使用されている項目認識信頼度テスト(エピソード記憶テスト)を用いています2,3)

・また、課題中に脳波を測定しました。

・課題後、被験者に自分は上位または下位の何%の位置にいるかを質問しました。

結果

・図1は行動データの成績(正答率)を示しています。

図1
Over-Estimators:過大評価者,Under-Estimators:過小評価者,Correct-Estimators:妥当評価者

自分のことを過大評価する被験者の成績は低い事がわかりました。逆に自分のことを過小評価する被験者と妥当評価する被験者の成績は高い事がわかりました。つまり、ダニング=クルーガー効果を再現できたことになります。

・図2は行動データの反応時間を示しています。

図2

自分の成績が下位にいると推定した場合(Low Estimate)は、過大評価者は過小評価者と比較して遅く反応し、逆に上位にいると推定した場合(High Estimate)の場合は早く反応しました。

・図3は脳波の結果を示しています。

図3

過大評価者は前頭葉の活動(400〜600ms)が大きく、逆に過小評価者は後頭葉の活動(600〜900ms)が大きく、過大評価者には認められませんでした。

前頭葉中部のFN400(400〜600ms)はfamiliarityに関連している事が明らかになっています4)。Familiarityとは、体験した出来事の詳細は思い出すことはできないが、以前に体験したものであると感じることです。つまり、曖昧な記憶ということになります。

一方で、600~900msの後頭葉の活動は記憶された情報の明確な詳細を判断していることが明らかになっています5)。つまり、正確な記憶ということになります。

まとめ

・本研究の目的はダニング=クルーガー効果を再現し、その脳内メカニズムを明らかにすることでした。

・項目認識信頼度テスト(エピソード記憶テスト)によってダニング=クルーガー効果を再現する事が可能でした。

・過大評価者と過小評価者では認知プロセスが異なる事が示唆されました。過小評価者の場合は記憶された情報の明確な詳細を頼りに判断し、一方で過大評価者の場合は曖昧な記憶を利用していることが示唆されました。

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参考文献

  1. Kruger J, & Dunning D. (1999). Unskilled and unaware of it: How difficulties in recognizing one’s own incompetence lead to inflated self-assessments. Journal of Personality and Social Psychology, 77(6), 1121–1134.
  2. Addante RJ, Watrous AJ, Yonelinas AP, Ekstrom AD, & Ranganath C. (2011). Prestimulus theta activity predicts correct source memory retrieval. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 108(26), 10702–10707.
  3. Roberts BM, Clarke A, Addante RJ, & Ranganath C. (2018). Entrainment enhances theta oscillations and improves episodic memory. Cognitive Neuroscience, 9(3–4), 181–193.
  4. Addante RJ, Ranganath C, & Yonelinas AP (2012). Examining ERP correlates of recognition memory: Evidence of accurate source recognition without recollection. NeuroImage, 62(1), 439–450.
  5. Yonelinas AP, Aly M, Wang W-C, & Koen JD (2010). Recollection and familiarity: Examining controversial assumptions and new directions. Hippocampus, 20(11), 1178–1194.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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