医療従事者・研究者用ノート

半側空間無視に対する眼球と上肢の運動を組み合わせたトレーニング

半側空間無視の治療法の1つに視覚走査療法があります。本日は、この視覚走査療法を改良して眼球運動とポインティング運動を組み合わせたトレーニングが従来の視覚走査療法よりも無視症状の軽減に効果的かどうかを調べた研究を紹介します。

タイトル:Congruent movement training as a rehabilitation method to ameliorate symptoms of neglect – proof of concept.

著者:Elshout JA, Stigchel SV, Nijboer TC

雑誌:Cortex. 2021

研究の背景

半側空間無視に対して行われている治療法(リハビリテーション)の1つにVisual Scanning Therapy(視覚走査療法)がある。この視覚走査療法は、積極的かつ意識的に無視側の空間に注意するように促すことで視覚走査行動を改善することを目的としている方法である。

しかし、無視患者では眼球運動のパフォーマンスに影響を受けることが多く、探索パターンも非対称的になることが明らかになっている1)。先行研究では、視覚走査療法に無視症状が軽減するという報告2,3)がある一方で、視覚走査療法後に無視症状の改善を認めなかったという報告もある4,5)。この違いの1つに無視の重症度や他の症状が併発していることがあり、治療の妨げになることが多い。そのため、現在では実験的な治療法(プリズム適応療法、非侵襲的刺激など)を組み合わせて行うことで有益性を検討する研究が増えてきている6,7)。しかし、残念なことに最近のレビューでは、現在のリハビリテーション技術の利点は不明であり、どのアプローチも支持できないことが示されている8)

視覚走査療法の改善点の1つとして、目、手、足などの運動システムは異なる実装システムによって構成されており、それぞれ(目、手、足)が独立して注意を向けられることができるという考えに基づいている。注意の前運動理論(Pre Motor Theory)(※)によると、動作の計画は注意の方向付けに必要かつ十分であるとされている9)。視覚走査療法で訓練された眼球運動の計画と実行が、同時に注意のシフトにつながるという報告がある10)。また、いくつかの研究では、一致した目と手の動き(同じ場所に同時に向けるとき)は、単一の目や手の動きよりも大きな注意のシフトにつながると報告されている11,12)。さらに、最近では視覚運動フィードバックトレーニングの有益な効果が報告されている13)

これらの結果を踏まえて、一致した眼球運動とポインティング運動を無視側に行う一致運動トレーニングは視覚走査療法よりも効果があると仮説を立てた。

そのため、本研究の目的は一致運動トレーニングが視覚走査療法より無視症状を改善させるかどうかを検証した。

(※)注意の前運動理論とは、私たちが内的に何かに注意を移すときに、そのものに関わるための運動計画を立てているという認知神経科学の理論である14)

方法

・被験者は亜急性期で星印抹消試験、線分二等分試験、Catherine Bergego Scale (CBS)のうち少なくとも1つが正常範囲を逸脱している場合の患者を対象とした。

・合計19名の無視患者をリクルートし、この19名を一致運動トレーニング群(10名)と視覚走査療法群(9名)に分けた。

・一致運動トレーニング群と視覚走査療法群は30分×10回(合計5時間)実施した。

・主要評価項目は星印抹消試験、線分二等分試験、Catherine Bergego Scale (CBS)の3つで初期評価とトレーニング後の改善度とした。(詳細な解析情報や副次評価指標は原文をご確認ください)

・図1は両方のトレーニングを示している。トレーニングはタッチパネルディスプレイを用いて行った。

図1

一致運動トレーニング群(図左)はディスプレイの非無視側に出た色の異なる3種類の丸を指でタッチして無視側のターゲット枠にテンプレートと同じ配置になるように丸を移動させる。

視覚走査療法群(図右)は非無視側にテンプレートが出現し、無視側にターゲット(上下はランダム)が出現する。患者は3種類の丸の位置がテンプレートとターゲットで何個異なるかを報告する。

結果

・図2はトレーニングの効果(3つの評価の合計指標)を示している。CMT:一致運動トレーニング群、VST:視覚走査療法群で縦軸の値が低いほど無視症状が軽減していることになる。

図2

一致運動トレーニング群では10名中7名に無視症状の改善が認められた。視覚走査療法群では9名中3名に無視症状が認められた。しかし、一致運動トレーニング群が視覚走査療法群よりも効果的であるという有意差は認められなかった(p=0.068)。

・図3はトレーニング課題の成績(指標)(A)とトレーニング課題の指標とトレーニング効果のスコアの相関(B)を示している。

図3

一致運動トレーニング群では約26%、視覚走査療法群では約18%のトレーニング課題の成績向上が認められたが、両群に有意差は認められなかった。

また、トレーニング指標とトレーニング効果のスコアの間には有意な中等度の関係が認められた(r=-0.45, p=0.05)。つまり、トレーニング中に改善を示した患者は、トレーニング効果のスコアにおいても改善したことを意味している。

まとめ

・本研究では眼球運動とポインティング運動を組み合わせた一致運動トレーニングが視覚走査療法よりも効果的かどうかを検証した。

・結果は、一致運動トレーニングと視覚走査療法でトレーニング効果に有意差は認められなかったが、一致運動トレーニングの方が無視症状が軽減した患者は多かった。

・一般的に視覚走査療法は少なくとも40時間のトレーニングで効果があることが示されている2)。今回の研究では合計トレーニング時間が5時間であり、トレーニング時間の短さが個人のトレーニング結果に大きなばらつきがあった理由の1つであると考えられる。

・一致運動トレーニングは視覚走査療法を改良したもので、臨床現場でも実施が容易であり、短時間のトレーニングで無視症状を軽減できる可能性がある。

参考文献

  1. Ten Brink, A.F., Van der Stigchel, S., Visser-Meily, J.M.A. and Nijboer, T.C.W. 2016. You never know where you are going until you know where you have been: Disorganized search after stroke. Journal of neuropsychology 10(2), pp. 256–275. 
  2. Antonucci, G., Guariglia, C., Judica, A., et al. 1995. Effectiveness of neglect rehabilitation in a randomized group study. Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology 17(3), pp. 383–389. 
  3. Luukkainen-Markkula, R., Tarkka, I.M., Pitkänen, K., Sivenius, J. and Hämäläinen, H. 2009. Rehabilitation of hemispatial neglect: A randomized study using either arm activation or visual scanning training. Restorative Neurology and Neuroscience 27(6), pp. 663–672. 
  4. Bowen, A., Hazelton, C., Pollock, A. and Lincoln, N.B. 2013. Cognitive rehabilitation for spatial neglect following stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews (7), p. CD003586. 
  5. Kerkhoff, G. and Schenk, T. 2012. Rehabilitation of neglect: an update. Neuropsychologia 50(6), pp. 1072–1079.
  6. Schröder, A., Wist, E.R. and Hömberg, V. 2008. TENS and optokinetic stimulation in neglect therapy after cerebrovascular accident: a randomized controlled study. European Journal of Neurology 15(9), pp. 922–927. 
  7. Robertson, I.H., McMillan, T.M., MacLeod, E., Edgeworth, J. and Brock, D. 2002. Rehabilitation by limb activation training reduces left-sided motor impairment in unilateral neglect patients: A single-blind randomised control trial. Neuropsychological Rehabilitation 12(5), pp. 439–454.
  8. Bowen, A., Hazelton, C., Pollock, A. and Lincoln, N.B. 2013. Cognitive rehabilitation for spatial neglect following stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews (7), p. CD003586. 
  9. Rizzolatti, G., Riggio, L., Dascola, I. and Umiltá, C. 1987. Reorienting attention across the horizontal and vertical meridians: evidence in favor of a premotor theory of attention. Neuropsychologia 25(1A), pp. 31–40.
  10. Deubel, H. and Schneider, W.X. 1996. Saccade target selection and object recognition: evidence for a common attentional mechanism. Vision Research 36(12), pp. 1827–1837. 
  11. Hanning, N.M., Aagten-Murphy, D. and Deubel, H. 2018. Independent selection of eye and hand targets suggests effector-specific attentional mechanisms. Scientific Reports 8(1), p. 9434. 
  12. Jonikaitis, D. and Deubel, H. 2011. Independent allocation of attention to eye and hand targets in coordinated eye-hand movements. Psychological Science 22(3), pp. 339–347. 
  13. Rossit, S., Benwell, C. S., Szymanek, L., Learmonth, G., McKernan-Ward, L., Corrigan, E., Harvey, M. (2019). Efficacy of home-based visuomotor feedback training in stroke patients with chronic hemispatial neglect. Neuropsychological rehabilitation, 29(2), 251-272.
  14. Craighero, L., Rizzolatti, G. CHAPTER31-The Premotor Theory of Attention. Neurobiology of Attention, pp. 181-186.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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