医療従事者・研究者用ノート

大脳皮質-線条体間の10個のネットワーク

本日は大脳皮質(主に前頭葉)-線条体間のネットワークに着目し、新たな解析手法を用いて10個のネットワークを同定し、霊長類の知見とも一致したことを示した論文を紹介します。

タイトル:Individualized Functional Subnetworks Connect Human Striatum and Frontal Cortex.

著者:Gordon EM, Laumann TO, Marek S, et al.

雑誌:Cerebral Cortex. 2021;00:1-17.

https://academic.oup.com/cercor/advance-article-abstract/doi/10.1093/cercor/bhab387/6412929?redirectedFrom=fulltext

背景

線条体は被殻、尾状核、淡蒼球、側坐核から構成される大脳基底核の主要な構成要素の1つである。線条体は運動計画の制御1)やワーキングメモリ2)、複雑な価値判断3)など複数のモダリティの目標指向行動を最適化し、実行するために重要である。線条体は皮質-線条体-視床-皮質の回路を介して複数の大脳皮質領域と結合しており、特に前頭前野と密に連携していることが明らかになっている4)

霊長類を用いた研究では、回路の結合をtract-tracing技術を用いて正確にマッピングすることが可能である4)。しかし、ヒトの研究で非侵襲的にこれらの結合を解剖学的な精度でマッピングすることは困難であった(理由などは原著を参照)。

しかし、最近では安静時機能的結合を用いて個人の脳の構造を非侵襲的にマッピング(precision functional mapping : PFM)することが可能になってきており5)、ある研究では大脳皮質-視床の大規模なネットワークレベルでの構造が明らかになった6)

そこで、本研究ではこのマッピング技術を用いて皮質-線条体の回路の結合を明らかにするとともに霊長類のデータに基づく既存モデルとどの程度一致するかを調べた。

方法

・被験者は右利きの健常成人10名(女性5名、年齢24-34歳)であった。

・被験者は数日かけて合計で5時間以上のMRI撮像を実施した(詳しい撮像内容と解析は原著を参照)。

結果

・大脳皮質(主に前頭葉)-線条体間の結合は10個のネットワークで構成されていることがわかった。

・また、ほとんどが霊長類で示されているtract-tracing研究のデータ4)と一致していた。唯一異なる部分として2つのネットワークはヒトの言語機能に関連する領域と結合していることもわかった。

・10個のネットワークの詳細(原著の図3を参照)

 ・被殻後部-運動領域

 ・被殻前部-cingulo-opercular system(内側前頭前皮質、帯状回皮質、島皮質)

 ・被殻中部- cingulo-opercular system(内側前頭前皮質、帯状回皮質、島皮質)

 ・淡蒼球- cingulo-opercular system(内側前頭前皮質、帯状回皮質、島皮質)

 ・尾状核前部-言語領域

 ・尾状核中部-言語領域

 ・尾状核腹側部-サリエンシーネットワーク領域(前部島皮質、背側前帯状皮質)

 ・尾状核背側部-前頭-頭頂領域

 ・側坐核shell-デフォルトモードネットワーク領域(内側前頭前野、前部帯状皮質、後部帯状皮質/楔前部、下頭頂葉)

 ・側坐核core-デフォルトモードネットワーク領域(内側前頭前野、前部帯状皮質、後部帯状皮質/楔前部、下頭頂葉)

まとめ

・本研究は、precision functional mapping技術を用いて個々の大脳皮質-線条体間のネットワークを明らかにし、霊長類で明らかになっているマッピングと一致するかどうかを調べた。

・大脳皮質(主に前頭葉)-線条体は10個のサブネットワークで構成されており、霊長類のマッピングとほとんど一致していた。

・これは現時点での大脳皮質-線条体間の最も詳細な解剖学的知見である。

・これらの解析でネットワークが詳細に明らかになることにより、精神疾患や神経変性疾患、脳損傷などで見られる個人特有の症状がどの回路の破綻によって生じているかを明らかにすることが可能になってくる。

参考文献

  1. Grillner S, Hellgren J, Ménard A, Saitoh K, Wikström MA. 2005. Mechanisms for selection of basic motor programs—roles for the striatum and pallidum. Trends Neurosci. 28:364–370
  2. Frank MJ, Loughry B, O’Reilly RC. 2001. Interactions between frontal cortex and basal ganglia in working memory: a com- putational model. Cogn Affect Behav Neurosci. 1:137–160.
  3. Schultz W, Dickinson A. 2000. Neuronal coding of prediction errors. Annu Rev Neurosci. 23:473–500.
  4. Haber SN. 2003. The primate basal ganglia: parallel and integrative networks. J Chem Neuroanat. Special Issue on the Human Brain—The Structural Basis for understanding Human Brain function and dysfunction. 26:317–330.
  5. Braga RM, DiNicola LM, Buckner RL. 2020. Situating the left- lateralized language network in the broader organization of multiple specialized large-scale distributed networks. J Neurophysiol. 124:1415–1448.
  6. Greene DJ, Marek S, Gordon EM, Siegel JS, Gratton C, Laumann TO, Gilmore AW, Berg JJ, Nguyen AL, Dierker D, et al. 2020. Integrative and network-specific connectivity of the basal ganglia and thalamus defined in individuals. Neuron. 105:742–758.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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