医療従事者・研究者用ノート / 一般向けノート

球技経験者は他の球技も上手いのか?

本日は、球技スポーツ経験と新規の球技を使用する運動技能の獲得との関係を調べた研究を紹介します。

タイトル:Acquisition of novel ball-related skills associated with sports experience.

著者:Sekiguchi H, Yamanaka K, Takeuchi S, et al.

雑誌:Scientific Reports. 2021:11(1):1-10.

https://www.nature.com/articles/s41598-021-91120-7

背景

日常生活、特に学校生活では、体育の授業やクラブ活動などで新しい運動技能に出会い、練習する機会が多くある。このような場合、新しいスキルを早く身に着けられる人と時間がかかる人がいる。学習速度の速い人は一般的に「運動神経が良い」、「才能がある」と見なされる。このような学習速度の速い人と遅い人の運動技能習得の違いは個人差によるものと考えられるが、その中には、これまでのスポーツ経験の違いも含まれる。多様なスポーツ経験は、運動のレパートリーを増やし1,2)、新規の運動技能を獲得するための基盤を作ることが示唆されている3)

経頭蓋磁気刺激や神経画像の研究では、皮質脊髄路やさまざまな脳領域は、慣れている、過去に経験がある動作を観察すると脳活動が増加することが明らかになっている4,5)。一方で、練習していない、過去に経験がない動作を観察すると自分がしたことのある動作と比べて脳活動が低下することが明らかになっている6)。したがって、運動レパートリーが多いほど脳領域は観察している動作に対して活動が増加する。このことは、運動制御や新しい技能獲得に有益であると考えられ、さまざまなスポーツ経験の重要性を強調している。

一方で、早期に1つの競技に絞って専門性を高めることで自分の選択した領域(スポーツや音楽など)の専門家(スポーツ選手など)になる可能性が高くなることも明らかになっている7)。しかし、早期に1つの競技に絞って専門性を高めることは多様なスポーツに挑戦する機会を奪う可能性もあることが言われている。そのため、様々なスポーツ経験(練習の種類や年数など)が新しい運動技能の獲得にはより有益であると著者らは考えている。

いくつかの研究では、特定のスポーツ経験に対する神経可塑性が報告されている8)。また、年齢、性別、脳局所体積が運動技能の獲得と関連することも報告されている9)

しかし、多種多様なスポーツ経験と新規運動技能の獲得や神経可塑性との関係を調べた研究はない。そこで、本研究はスポーツ経験と新規の球技運動技能の獲得との関連とスポーツ経験と皮質脊髄路の興奮性との関連を調べた。

方法

・被験者は神経疾患の既往歴のない大学生28名(男性22名、平均年齢19.8±1.0歳)であった(各被験者の球技及び非球技の経験年数は原著の表2に記載あり)。

・新規の運動課題は、右手を使用して2つのボールをジャグリングするように指示した。ボールを落としたり、動きを止めると1回の試行が終了し、各セッションは10回で構成されており、10セッション実施した。

・経頭蓋磁気刺激は最大磁場強度2.2Tの刺激装置と70mmの二重刺激コイルを用いて実施した。

結果

・球技経験が長い人ほど、新規のボール関連スキルの獲得が早いことがわかった。

・しかし、どの球技でも新規のボールスキルの獲得が早いわけではなかった。つまり、ボールに関する新しいスキルの習得には、新規のボールと同じ性質の球技を経験している必要があった。

・皮質脊髄路の興奮性は、球技経験が長いほど皮質脊髄路の興奮性と有意な負の相関、非球技経験が長いほど皮質脊髄路の興奮性と有意な正の相関があった。

まとめ

・本研究では、スポーツ経験が新規の球技関連スキルの獲得に与える影響とスポーツ経験と皮質脊髄路の興奮性の関係を調べた。

・球技スポーツ経験があると新規ボール関連スキルの上達が早いことがわかった。

・球技経験が長いほど皮質脊髄路の興奮性は低く、非球技経験が長いほど皮質脊髄路の興奮性は高かった。この理由として、球技ではパワーよりも主にボールをコントロールする微細な運動制御が必要となってくることから皮質脊髄路の興奮性は高い必要がない。一方で非球技(短距離、柔道、ウエイトリフティングなど)は主にパワーを必要とするため皮質脊髄路の興奮性が高いことが考えられる。

・今回の結果から、球技の経験年数が新規運動スキルの獲得に重要な要素である可能性が示唆された。

参考文献

  1. Shadmehr, R., Smith, M. A. & Krakauer, J. W. Error correction, sensory prediction, and adaptation in motor control. Annu. Rev. Neurosci. 33, 89–108 (2010).
  2. Wolpert, D. M., Diedrichsen, J. & Flanagan, J. R. Principles of sensorimotor learning. Nat. Rev. Neurosci. 12, 739–751 (2011).
  3. Seidler, R. D. Neural correlates of motor learning, transfer of learning, and learning to learn. Exerc. Sport Sci. Rev. 38, 3–9 (2010).
  4. Calvo-Merino, B., Grèzes, J., Glaser, D. E. & Passingham, R. E. Seeing or doing? Influence of visual and motor familiarity in action observation. Curr. Biol. 16, 1905–1910 (2006).
  5. Aglioti, S. M., Cesari, P., Romani, M. & Urgesi, C. Action anticipation and motor resonance in elite basketball players. Nat. Neurosci. 11, 1109–1116 (2008).
  6. Tai, Y. F., Scherfler, C., Brooks, D. J., Sawamoto, N. & Castiello, U. The human premotor cortex is ‘mirror’ only for biological actions. Curr. Biol. 14, 117–120 (2004).
  7. Ericsson, K. A., Krampe, R. T. & Tesch-Römer, C. The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychol. Rev. 100, 363–406 (1993).
  8. Chang, C. Y., Chen, Y. H. & Yen, N. S. Nonlinear neuroplasticity corresponding to sports experience: A voxel-based morphometry and resting-state functional connectivity study. Hum. Brain Mapp. 39, 4393–4403 (2018).
  9. Kennedy, K. M. & Raz, N. Age, sex and regional brain volumes predict perceptual-motor skill acquisition. Cortex 41, 560–569 (2005).

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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