医療従事者・研究者用ノート

半側空間無視の音刺激に対する予測エラー

本日は半側空間無視の音刺激に対する事前注意(ミスマッチ陰性電位)とP3成分(刺激頻度や一致・不一致に関連した成分)を調べた研究を紹介します。

タイトル:Deficits of hierarchical predictive coding in left spatial neglect.

著者:Doricchi F, Pinto M, Pellegrimo M, et al.

雑誌:Brain Communications. 2021:3(2):1-16.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34151266/

背景

大脳皮質は複数のレベルで階層的なトップダウン予測アルゴリズムを実行しており、入ってくる感覚刺激の予測に役立っている1)。各階層の処理レベルには、環境の内部モデルがあり、このモデルは過去の経験から生成されている。このモデルは、下位の処理レベルを制御するトップダウン予測を行う。予測は、連続的に入ってくる新しい入力と比較され、予測と実際の出来事間でミスマッチが検出されると「予測エラー」が下位の階層から上位の階層に伝達され、内部モデルが調整される。

右半球損傷では、半側空間無視が生じることが多い。ある研究で2)、無視患者の注意前処理を評価するために、患者の左または右の60°の位置からランダムに自然音をランダムに提示する。しかし、あるときに内側に30°ずれた位置に音を提示すると健常者ではミスマッチ陰性電位が、音が提示されてから130-150ms後に前部-中部領域に記録される。しかし、無視患者では空間の左側のずれた位置(30°)に対する音のミスマッチ陰性電位が減少する。これは、無視患者が同じ刺激の予測処理が損なわれている可能性を示唆している。

最近の研究では3,4)、右向きの手がかり刺激の後、左空間に稀に提示されるターゲットによって誘発されるP3a反応の振幅が病的に低下し、逆に右空間に提示されるターゲットではP3aの病的な増強が認められたと報告している。P3aは頻度が低い、かつ急に提示される刺激で誘発される5)ことから無視患者は損傷と対側空間の刺激に対する新奇性反応が低下し、損傷と同側空間の刺激に対する新奇性反応が亢進していると結論づけている。さらに無視患者では、左空間にあるすべての種類のターゲットで誘発されるP3b成分が全般的に低下している。P3bは、予期される刺激と実際の刺激との一致・不一致の処理に関与している5)ことから無視患者が感覚的手がかりと対側空間のターゲットとの間の確立的な関連性を監視できないことを示唆している。

これらの知見から無視患者は予測符号化(環境の中で感覚刺激の確率的な関連性を識別して利用すること)に障害がある可能性が考えられる。

そこで、本研究は、空間聴覚特性を操作し、無視患者の事前注意(ミスマッチ陰性電位)およびP3成分を調べた。

方法

・被験者は左半側空間無視を伴う右半球損傷患者13名、左半側空間無視を伴わない右半球損傷患者14名、年齢を一致させた健常者16名であった。平均年齢は59.2歳、発症後47日(平均)であった。

・聴覚刺激はヘッドホンから提示し、被験者には前方のモニターに提示される十字架を見ることを指示した。

・課題は、音が前方の中央の位置から自分の方向へ近づいて最後(5回目)は左右どちらかに移動する刺激、最後まで中央で音が提示される刺激、最後の音がない刺激の4種類を提示した(図1)。

図1

・脳波は64チャネルのBrain Visionシステムを使用し、課題中に測定した。

(さらに詳しい課題設定や解析は原著を確認して下さい)

結果

・無視患者は、左側に移動する刺激と最後の音がない刺激においてミスマッチ陰性電位を示さなかった。しかし、右側に移動する刺激に対してはミスマッチ陰性電位を示した。

・一方で、P3反応は頻度の低い左側の逸脱音に対してP3反応が増強した。

まとめ

・本研究では、4種類の聴覚刺激を提示したときの無視患者の事前注意(ミスマッチ陰性電位)およびP3成分を調べた。

・無視患者では、左空間に対するミスマッチ陰性電位が消失した。一方でP3成分は増強した。

・左右に逸脱した音は注意前のミスマッチ陰性電位を生じさせることから最後の音の刺激の逸脱は局所的な逸脱に対する低次の予測エラーを反映している。一方で、音響環境におけるこれらの逸脱の頻度に関する高次の予測誤差、すなわち大域的な逸脱はP3反応によって示される。つまり、無視患者は音には反応できるが、その音のズレやどこから発生しているかは予測できない可能性があることを示唆している。

参考文献

  1. Friston K. A theory of cortical responses. Philos Trans R Soc B Biol Sci. 2005;360(1456):815–836.
  2. Deouell LY, Bentin S, Soroker N. Electrophysiological evidence for an early (pre-attentive) information processing deficit in patients with right hemisphere damage and unilateral neglect. Brain. 2000; 123(2):353–365.
  3. Lasaponara S, D’Onofrio M, Pinto M, et al. EEG correlates of preparatory orienting, contextual updating, and inhibition of sensory processing in left spatial neglect. J Neurosci. 2018;38(15): 3792–3808.
  4. Lasaponara S, Pinto M, Aiello M, Tomaiuolo F, Doricchi F. The hemispheric distribution of a-band EEG activity during orienting of attention in patients with reduced awareness of the left side of space (spatial neglect). J Neurosci. 2019;39(22):4332–4343.
  5. Polich J. Updating P3: An integrative theory of P3a and P3b. Clin Neurophysiol. 2007;118(10):2128–2148.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です