医療従事者・研究者用ノート

言語ネットワークの発達過程

言語の神経基盤は出生前に存在すると考えられていますが、言語ネットワークの重要なノードであるブローカ野とウェルニッケ野間の機能的結合の発達過程についてはあまり知られていません。本日は、言語ネットワークの発達過程を調べた研究を紹介します。

タイトル:Functional Connectivity for the Language Network in the Developing Brain : 30 Weeks of Gestation to 30 Months of Age.

著者:Scheinost D, Chang J, Lacadie C, et al.

雑誌:Cerebral Cortex. 2021:1-13.

https://academic.oup.com/cercor/advance-article/doi/10.1093/cercor/bhab415/6454658

背景

言語は人間の発達に置いて欠かせないものである。左下前頭回にあるブローカ野と左上側頭回にあるウェルニッケ野は言語において最も重要な領域であり、それぞれ右半球にも相同部位が存在する。しかし、これらの領域がどのように発達していくのかは、まだ十分に解明されていない。

ブローカ野とウェルニッケ野間の機能的結合は出生前に発達し始めることが明らかになっている1)。胎児期の横断的な機能的結合データでは、妊娠第3期にわたってブローカ野とウェルニッケ野と右半球の相同部位間の半球間の結合性が増加し2)、さらに半球内ネットワークは3期にわたってより左側化する3)。しかし、新生児では、ブローカ野とウェルニッケ野の半球内ネットワークの結合性は弱くしか存在せず4)、幼児期まで完全には発達しない5)。一方で半球間は強い結合性を示すことが明らかになっている6)

しかし、これらの先行研究は妊娠第3期から産後1ヶ月までの縦断的データがない。そこで、本研究では複数のデータセットから得られた横断的および縦断的データを用いて、定型発達の胎児、乳児、幼児における妊娠30週から生後30ヶ月までのブローカ野とウェルニッケ野および右半球の相同部位間の機能的結合を調べた。

方法

・この研究は、イェール大学、Cincinnati MR Imaging of Neurodevelopment studyとUniversity of California Los Angeles Autism Center of Excellence projectから得られたデータを使用した。

・被験者は妊娠30-36週の16名の胎児、新生児67名、乳児44名を対象とした。

・resting-state fMRIデータを用いて、左半球のブローカ野とウェルニッケ野と定義された領域と右半球の相同部位のペアからの機能的結合を算出した。

結果

・妊娠31週から35週の間に言語ネットワークの機能的結合が著しく増加し、生後31週から45週の間に全体の機能的結合がほぼ4倍に増加することがわかった。(図は原著をご覧ください)

・特に、左ブローカ野と右半球の相同部位、左ウェルニッケ野と右の半球の相同部位の半球間の機能的結合は妊娠30週から生後1ヶ月までに著しく成長することがわかった。

・しかし、半球内の機能的結合はこの期間中(妊娠30週から生後1ヶ月)は有意な増加を示さなかった。

まとめ

・本研究は、妊娠30週から生後30ヶ月までのブローカ野とウェルニッケ野および右半球の相同部位間の機能的結合を調べた。

・妊娠30週から生後1ヶ月までの期間中は半球間の機能的結合は著しく成長を示したが、半球内の機能的結合は有意な成長を示さなかった。

・これらの結果から、言語の神経基盤は出生前から発達し、言語ネットワークの機能的結合は妊娠31週から生後1ヶ月の間の時期に急速に成熟することが明らかになった。

参考文献

  1. Jardri R, Houfflin-Debarge V, Delion P, Pruvo JP, Thomas P, Pins D. 2012. Assessing fetal response to maternal speech using a noninvasive functional brain imaging technique. Int J Dev Neurosci. 30: 159–161.
  2. Thomason ME, Dassanayake MT, Shen S, Katkuri Y, Alexis M, Ander- son AL, Yeo L, Mody S, Hernandez-Andrade E, Hassan SS, et al. 2013. Cross-hemispheric functional connectivity in the human fetal brain. Sci Transl Med. 5(173):173ra124.
  3. Thomason ME, Brown JA, Dassanayake MT, Shastri R, Marusak HA, Hernandez-Andrade E, Yeo L, Mody S, Berman S, Hassan SS, et al. 2014. Intrinsic functional brain architecture derived from graph theoretical analysis in the human fetus. PLoS One. 9(5): e94423.
  4. Perani D, Saccuman MC, Scifo P, Anwander A, Spada D, Baldoli C, Poloniato A, Lohmann G, Friederici AD. 2011. Neural language networks at birth. Proc Natl Acad Sci U S A. 108:16056–16061.
  5. Emerson RW,GaoW, Lin W.2016.Longitudinal study of the emerging functional connectivity asymmetry of primary language regions during infancy. J Neurosci. 36(42):10883–10892.
  6. Kwon SH, Scheinost D, Lacadie C, Benjamin J, Myers EH, Qiu M, Schneider KC, Rothman DL, Constable RT, Ment LR. 2014. GABA, resting-state connectivity and the developing brain. Neonatology. 106:149–155.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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