医療従事者・研究者用ノート

線維筋痛症の脳変化

本日は線維筋痛症の皮質下の形状、皮質の厚さ、構造的共分散、安静時の機能的結合の変化を調べた研究を紹介します。

タイトル:Structural and functional thalamocortical connectivity study in female fibromyalgia.

著者:Kim D, Lim M, Kim JS and Chung CK.

雑誌:Scientific Reports. 2021:11:23323.

https://www.nature.com/articles/s41598-021-02616-1

背景

線維筋痛症は最も一般的で深刻な慢性疼痛疾患の1つであり、人口の約10-12%が罹患し、女性では男性に比べて2倍になるとも言われている1)

線維筋痛症は広範囲にわたる筋骨格系の痛みに加えて、睡眠の質や認知機能の低下、感情コントロール障害などを伴う2)

詳しいメカニズムは解明されていないが、中枢性感作(中枢神経系における痛覚過敏を誘発する神経信号の反応性の増加)が主な原因であることが示唆されている3)

しかし、この20年間で線維筋痛症について脳の構造的変化4,5)、機能的変化6,7)、神経科学的変化8,9)が明らかになってきた。中でも、視床-皮質ネットワークの乱れが、痛みの調節機能の低下に寄与している可能性が示唆されている。以前のfMRI研究では、線維筋痛症患者にコントロール群と同程度の強さの圧迫刺激を与えると、視床枕や前帯状皮質などの疼痛調節領域の活動が低下することが示されている10)。さらに、線維筋痛症患者は視床と眼窩前頭皮質間の機能的結合の低下や視床-皮質ネットワークシステムの低下が示されている11)

しかし、どのように視床-皮質ネットワークが変化しているのか、それが線維筋痛症の痛覚異常と関連しているかについては明らかになっていない。

そこで、本研究の目的は、皮質下の形状、皮質の厚さ、構造的共分散、安静時の機能的結合の変化が線維筋痛症と関連しているのかを調べた。

方法

・被験者は線維筋痛症患者19名であった。

・リクルート基準は以下であった。

(1)年齢が30-60歳

(2)広範囲の痛みの持続期間が3ヶ月以上

(3)過去1週間の痛みの平均強度が10段階visual analog scaleで4以上

(4)体性感覚系に影響を与える薬剤を評価の3日前までに中止する意思がある。

・質問紙は気分評価(Beck Depression Inventory)、VAS、McGill Pain Questionnaire(MPQ)を評価した。

・MR撮像はMagnetom TrioTim 3Tスキャナー(Siemens)を使用した。(詳しいMRI解析は原著を確認して下さい)

結果

・線維筋痛症患者では、左視床の腹側後外側核と視床枕の局所的な形状変化が認められた。

・構造的変化では、左視床後部の局所的な変化の程度が左下頭頂小葉の厚さと負の共分散(2種類のデータの関係を示す指標)が認められた。

・安静時機能的結合では、左視床後部と視床下部周囲灰白質との機能的結合が低下、視床後部と両側の下頭頂小葉との機能的結合が増加していた。また、これらの機能的結合は手背の電気的疼痛閾値の低下と関連していた。

(詳しい図は原著を参照して下さい。)

まとめ

・本研究では、線維筋痛症の皮質下の形状、皮質の厚さ、構造的共分散、安静時の機能的結合の変化を調べた。

・線維筋痛症では、視床の局所的な萎縮と下頭頂小葉との構造的・機能的ネットワークの機能低下が認められた。

・視床-皮質(特に下頭頂小葉)ネットワークが痛みの調節や注意処理に関与していることを考えると、今回の知見は、視床-下頭頂小葉ネットワークの構造的・機能的な異常状態が痛みの感受性に影響を与え、それが線維筋痛症の痛みレベルの上昇につながっている可能性が示唆された。

参考文献

  1. Mansfield, K. E., Sim, J., Jordan, J. L. & Jordan, K. P. A systematic review and meta-analysis of the prevalence of chronic widespread pain in the general population. Pain. 2016, 157, 55–64.
  2. McBeth, J. & Mulvey, M. R. Fibromyalgia: Mechanisms and potential impact of the ACR 2010 classification criteria. Nat. Rev. Rheumatol. 2012, 8, 108–116.
  3. Schmidt-Wilcke, T. & Clauw, D. J. Fibromyalgia: From pathophysiology to therapy. Nat. Rev. Rheumatol. 2011, 7, 518–527. 
  4. Kim, D. J. et al. Altered white matter integrity in the corpus callosum in fibromyalgia patients identified by tract-based spatial statistical analysis. Arthritis Rheumatol. 2014, 66, 3190–3199.
  5. Leon-Llamas, J. L., Villafaina, S., Murillo-Garcia, A. & Gusi, N. Impact of fibromyalgia in the hippocampal subfields volumes of women—An MRI study. Int. J. Environ. Res. Public Health. 2021, 18, 1549.
  6. Choe, M. K., Lim, M., Kim, J. S., Lee, D. S. & Chung, C. K. Disrupted resting state network of fibromyalgia in theta frequency. Sci. Rep. 2018, 8, 2064.
  7. Choi, W., Lim, M., Kim, J. S. & Chung, C. K. Habituation deficit of auditory N100m in patients with fibromyalgia. Eur. J. Pain. 2016, 20, 1634–1643.
  8. Pomares, F. B. et al. Upregulation of cortical GABAA receptor concentration in fibromyalgia. Pain. 2020, 161, 74–82. 
  9. 16. Foerster, B. R. et al. Reduced insular gamma-aminobutyric acid in fibromyalgia. Arthritis Rheum. 2012, 64, 579–583.
  10. Jensen, K. B. et al. Evidence of dysfunctional pain inhibition in Fibromyalgia reflected in rACC during provoked pain. Pain. 2009, 144, 95–100.
  11. Jensen, K. B. et al. Patients with fibromyalgia display less functional connectivity in the brain’s pain inhibitory network. Mol. Pain.2021, 8, 32.

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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