医療従事者・研究者用ノート

頭頂葉と物体操作

本日は、脳腫瘍患者を対象に覚醒下手術中に頭頂葉への直接電気刺激が手指操作課題の手指筋に及ぼす影響について調べた研究を紹介します。

タイトル:Motor impairment evoked by direct electrical stimulation of human parietal cortex during object manipulation.

著者:Fornia L, Rossi M, Rabuffetti M, et al.

雑誌:NeuroImage. 2022:118839.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811921011101?dgcid=rss_sd_all

背景

手指の外在筋と内在筋の制御は物体操作する上で重要である。運動前野は、ヒトとヒト以外の霊長類の両方において、目標指向運動のための手-筋肉の形成に重要であることが明らかになっている1,2)

しかし、物体操作時の筋収縮の正確な形成は、運動前野と関係しているが、ヒト以外の霊長類におけるいくつかの研究では、頭頂葉領域も熟練動作時の手-筋の制御に関与している可能性を示唆している。特定の頭頂葉の手関連領域(例えば、頭頂間溝のAIP領域)が運動野や(腹側)運動前野との結合を介して運動出力に作用することが示されている3)

ヒト以外の霊長類のデータは、脊髄カイロへの直接的(皮質-脊髄)または間接的(頭頂-前頭)な作用を介して、動作中の器用な手-筋肉の制御に頭頂葉領域が寄与することを示唆している。

ヒトの場合では、fMRIやTMSを用いて調査されており、fMRI研究では、把持や物体操作の課題時に中心後回、上頭頂小葉、頭頂間溝などの頭頂葉領域が広く活動することが示されている4,5)。TMS研究では、頭頂間溝のAIP領域に繰り返しTMSを行うことで、課題中の把持や物体操作が損なわれることを報告している6)

しかし、ヒトにおいて、物体操作とそれに関する手指の筋制御への頭頂葉の関与について直接的かつ局所的な電気生理学的アプローチは検討されたことがない。

そこで、本研究では脳腫瘍患者を対象に覚醒下手術中に頭頂葉への直接電気刺激が手指操作課題の手指筋に及ぼす影響について調べることを目的とした。

方法

・被験者は34名の脳腫瘍患者(平均年齢46±12.5歳)であった。

・患者は上肢の失行や感覚・運動障害はなく、ARATは57点(最高)であった。

・運動課題は円筒形ハンドルを母指と示指で握り、それを保持・回転・離す運動を行った。

・また、運動課題中に24筋から筋電図を測定した。

・この時、ランダムで関心領域(主に頭頂葉)へ電流刺激を実施した。

結果

・中心後回の手・指領域と頭頂間溝(AIP)に刺激すると運動課題の実行が損なわれることがわかった。

・特にAIP領域の刺激では中心後回への刺激よりも筋活動が障害された。

まとめ

・本研究は、頭頂葉への直接電流刺激が手指操作課題に及ぼす影響について検討した。

・頭頂葉の中心後回の手・指領域と頭頂間溝のAIP領域への刺激で手指筋制御に影響を与えることがわかった。また、刺激部位により運動の障害の程度(不器用な程度から課題困難な程度まで)が異なることがわかった。

・これらは筋肉への一次運動出力と感覚運動統合の形成における異なる機能的側面を反映している可能性が示唆された。

参考文献

  1. Davare, M., Lemon, R., Olivier, E., 2008. Selective modulation of interactions between ventral premotor cortex and primary motor cortex during precision grasping in hu- mans. J. Physiol. 586 (11), 2735–2742.
  2. Côté, S.L., Hamadjida, A., Quessy, S., Dancause, N., 2017. Contrasting modulatory effects from the dorsal and ventral premotor cortex on primary motor cortex outputs. J. Neurosci. 37 (24), 5960–5973.
  3. Stepniewska, I., Gharbawie, O.A., Burish, M.J., Kaas, J.H., 2014. Effects of muscimol in- activations of functional domains in motor, premotor, and posterior parietal cortex on complex movements evoked by electrical stimulation. J. Neurophysiol. 111 (5), 1100–1119.
  4. Gallivan, J.P., Culham, J.C, 2015. Neural coding within human brain areas involved in actions. Curr. Opin. Neurobiol. 33, 141–149.
  5. Errante, A., Ziccarelli, S., Mingolla, G., Fogassi, L., 2021. Grasping and manipula- tion: neural bases and anatomical circuitry in humans. Neuroscience 458, 203–212.
  6. Davare, M., Andres, M., Clerget, E., Thonnard, J.L., Olivier, E., 2007. Temporal dissocia- tion between hand shaping and grip force scaling in the anterior intraparietal area. J. Neurosci. 27 (15), 3974–3980.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です