医療従事者・研究者用ノート

空間注意と内側眼窩領域

本日は前頭眼野の姉妹領域である補足眼野と帯状眼窩領域がどの程度、自発的な視覚的注意の制御に寄与しているかを検証した論文を紹介します。

タイトル:Contribution of the medial eye field network to the voluntary deployment of visuospatial attention

著者:Herbet G and Duffau H.

雑誌:Nature Communications. 2022:13(1):1-13.

https://www.nature.com/articles/s41467-022-28030-3

背景

変化する環境の中で顕著なもの、関連するものに視覚的に注意を向けることは適応行動や生存のために必要な能力である。特に、ほとんどの行動が視覚的な誘導が必要である。ヒトの場合、神経画像、行動、疾患の研究から視覚-空間的注意は広範囲のネットワークの協調的活動によって維持されており1)、特に前頭-頭頂葉の結合が関与していると考えられている。

視覚・空間的注意は主に2つのネットワークがそれぞれ異なる注意の処理に特化していると仮定されている2,3)。特に、前頭眼野と頭頂間溝を中心とする背側注意経路は視覚シーンの意味のある要素に意図的に注意を向ける能力(トップダウン的または目標指向的)があるのに対して、腹側注意経路は側頭-頭頂接合部と中・下前頭回を中心として予期しない出来事や新しい視覚目標に注意を向け直すときに作動する4,5)。これら2つの経路は文脈依存的統合により視覚的・空間的注意を制御できると考えられている6)

しかし、内側にある領域の正確な役割については明らかでないことが多い。特に前頭眼野の姉妹領域である補足眼野(supplementary eye field)7)や前帯状皮質の後方にある帯状眼窩領域(cingulate eye field)8)がその例である。

前頭眼野は、サッカードの準備、開始、実行を含む眼球運動制御に関与していると考えられてきた9)。この見解は、ヒト10,11)および霊長類12)において前頭眼野への低強度の電気刺激が対側への眼球運動を引き起こすことが認められる根拠によって支持され、さらに様々な形態の眼球運動においてこの領域が活動を示すfMRI所見によって補強された9,13)

しかし、前頭眼野はサッカードや視覚による表出的・潜在的な注意の移動によって補足眼野や帯状眼窩領域とともに活性化されることから視覚運動系と視覚空間系の間のハブ領域として機能していることが提唱されている14)。さらに、前頭眼野は補足眼野や帯状眼窩領域に共通する結合パターンで両機能系と相互の解剖学的結合を有している15)

しかし、補足眼野や帯状眼窩領域の役割について不明な点が多い。現在の仮説では、補足眼野は眼球運動の高次認知的側面に関与し、帯状眼窩領域は視覚誘導の動機づけに関与していると考えられている13,16)

そこで、本研究では補足眼野や帯状眼窩領域の損傷がどの程度、自発的な視覚的注意の制御が可能になるのかを検証した。

方法

・低悪性度グリオーマを発症した患者の大規模コホートの行動データを利用し、128名の患者データを対象とした。

・評価は、半側空間無視の評価で使用される線分二等分試験とキャンセレーション課題を用いた。

結果

補足眼野と帯状眼窩領域の損傷(外科的除去)では、キャンセレーション課題の成績が著しく低下し、線分二等分試験の成績は一過性の低下のみであった。

まとめ

・本研究は、前頭眼野の姉妹領域である補足眼野や帯状眼窩領域の損傷が、自発的な視覚的注意の制御に影響を及ぼすかを検証した。

・補足眼野や帯状眼窩領域の損傷は、キャンセレーション課題の成績のみ著しく低下した。

・このことは、内側眼窩ネットワークが視覚・空間的注意の随意的展開に寄与していることが示唆される。

(方法と結果の詳しい内容は原著をご覧下さい。)

https://www.nature.com/articles/s41467-022-28030-3

参考文献

  1. Mesulam, M.-M. A cortical network for directed attention and unilateral neglect. Ann. Neurol. 10, 309–325 (1981).
  2. Corbetta, M. & Shulman, G. L. Control of goal-directed and stimulus-driven attention in the brain. Nat. Rev. Neurosci. 3, 201 (2002).
  3. Corbetta, M., Patel, G. & Shulman, G. L. The reorienting system of the human brain: from environment to theory of mind. Neuron 58, 306–324 (2008).
  4. Macaluso, E. & Doricchi, F. Attention and predictions: control of spatial attention beyond the endogenous-exogenous dichotomy. Front. Human Neurosci. 7, 685 (2013).
  5. Geng, J. J. & Vossel, S. Re-evaluating the role of TPJ in attentional control: contextual updating? Neurosci. Biobehav. Rev. 37, 2608–2620 (2013).
  6. Vossel, S., Geng, J. J. & Fink, G. R. Dorsal and ventral attention systems: distinct neural circuits but collaborative roles. Neuroscientist 20, 150–159 (2014).
  7. Schlag, J. & Schlag-Rey, M. Evidence for a supplementary eye field. J. Neurophysiol. 57, 179–200 (1987).
  8. Gaymard, B. et al. Effects of anterior cingulate cortex lesions on ocular saccades in humans. Exp. Brain Res. 120, 173–183 (1998).
  9. Vernet, M., Quentin, R., Chanes, L., Mitsumasu, A. & Valero-Cabré, A. Frontal eye field, where art thou? Anatomy, function, and non-invasive manipulation of frontal regions involved in eye movements and associated cognitive operations. Front. Integr. Neurosci. 8, 66 (2014).
  10. Milea, D. et al. Antisaccade deficit after anterior cingulate cortex resection. Neuroreport 14, 283–287 (2003).
  11. Montemurro, N., Herbet, G. & Duffau, H. Right cortical and axonal structures eliciting ocular deviation during electrical stimulation mapping in awake patients. Brain Topogr. 29, 561–571 (2016).
  12. Robinson, D. A. & Fuchs, A. F. Eye movements evoked by stimulation of frontal eye fields. J. Neurophysiol. 32, 637–648 (1969).
  13. Amiez, C. & Petrides, M. Anatomical organization ofthe eye fields in the human and non-human primate frontal cortex. Prog. Neurobiol. 89,220–230 (2009).
  14. Grosbras, M.-H., Laird, A. R. & Paus, T. Cortical regions involved in eye movements, shifts of attention, and gaze perception. Hum. Brain Mapp. 25, 140–154 (2005).
  15. Bates, J. F. & Goldman‐Rakic, P. S. Prefrontal connections of medial motor areas in the rhesus monkey. J. Comp. Neurol. 336, 211–228 (1993).
  16. Pierrot-Deseilligny, C., Müri, R. M., Ploner, C. J., Gaymard, B. & Rivaud- Péchoux, S. Cortical control of ocular saccades in humans: a model for motricity. Prog. Brain Res. 142,3–17 (2003).

投稿者

tsujimoto.kengo8762@gmail.com

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