医療従事者・研究者用ノート

海馬の符号化と検索

本日は、海馬における符号化と検索が背側注意ネットワークとデフォルトモードネットワークが特異的に関係しているかを調べた研究を紹介します。

タイトル:Functional Parcellation of the Hippocampus based on its Layer-specific Connectivity with Default Mode and Dorsal Attention Networks

著者:Deshpande G, Zhao X, Robinson J

雑誌:NeuroImage. 2022:119078

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811922002075

背景

海馬は内側側頭葉に位置し、エピソード記憶や空間ナビゲーションなど多くの機能がある1,2)。海馬の異常は、アルツハイマー病、うつ病、心的外傷後ストレス障害および統合失調症など多くの精神神経疾患で確認されている。

近年、多くの研究により、海馬には機能的に分化が存在することが示されている3)。Lepageらは4)、エピソード記憶のPETによるメタ解析を行い、海馬の秩序だった機能解剖学的パターンを発見した。具体的には、海馬の前部はエピソード記憶の符号化に伴って活性化され、後部はエピソード記憶の検索に関連していることがわかった。これはHIPERモデル(hippocampus encoding/retrieval model)と呼ばれている。

このHIPERモデルは多くの研究から支持を得ている。

Spaniolらは5)、エピソード記憶の事象関連fMRI研究のメタアナリシスを行い、符号化と検索に関連する海馬の活性化に前方-後方勾配があることを明らかにした。

Nadelらは6)、異なるタイプの空間情報を検索する際の海馬の前方および後方の活性化を比較した。この研究から、海馬の縦軸に沿って機能分化があり、後方海馬は正確な空間行動に重要であり、前方海馬は文脈の符号化に関与していることが明らかになった。

BaumannとMattingleyらは7)、fMRIデータを用いてタクシー運転手の海馬の検索関連活動を調べ、前部海馬が小さいタクシー運転手は、新しい空間関連付けの符号化が困難であることを発見した。

さらに、Kimらは8)、メタ分析を行い、感覚入力の符号化には主に前部海馬と背側注意ネットワークが関与し、検索には主に後部海馬とデフォルトモードネットワークが関与することを明らかにした。このモデルはHERNETモデル(hippocampal encoding/retrieval and network model)と呼ばれる。

そこで、本研究では、ヒトにおいて層特異的な大脳皮質-海馬回路の機能的結合性を計算することにより、HERNETモデルの妥当性を非侵襲的に検証する。

方法

・被験者は健常者31名(右利き:26名、男性12名、年齢21.1±1.4歳)を対象とした。

・撮像はSiemens 7T MAGNONETOM scannerを使用した。

・課題は符号化課題と想起課題を実施した。

・HERNETモデルの予測を検証するために、符号化時の背側注意ネットワークの顆粒出力層と海馬の間の機能的結合、および検出時のデフォルトモードネットワークの顆粒入力層と海馬の間の機能的結合を計算した。

結果

・符号化課題では海馬が背側注意ネットワークのⅤ層との相関が高く、想起課題では海馬はデフォルトモードネットワークのⅡ層との相関が高いことがわかった。

・しかし、符号化課題で海馬の前部と背側注意ネットワークのⅤ層との相関が強く、想起課題では海馬の後部とデフォルトモードネットワークのⅡ層との相関が強いという支持は得られなかった。

まとめ

・HERNETモデル(hippocampal encoding/retrieval and network model)の妥当性を調べた。

・海馬全体と背側注意およびデフォルトモードネットワークはそれぞれ、符号化と検索に関係があることが予測されたが、これらのネットワーク関係における前方-後方の特異性は確認することができなかった。

・海馬機能のより詳細なモデルを構築するためには、空間的・時間的解像度の観点からより質の高いデータを用いることが必要であることが示唆された。

参考文献

  1. S. R. Das, D. Mechanic-Hamilton, J. Pluta, M. Korczykowski, J. A. Detre, and P. A. Yushkevich, “Heterogeneity of functional activation during memory encoding across hippocampal subfields in temporal lobe epilepsy,” Neuroimage, vol. 58, no. 4, pp. 1121–1130, 2011.
  2. P. A. Yushkevich, H. Wang, J. Pluta, S. R. Das, C. Craige, B. B. Avants, M. W. Weiner, and S. Mueller, “Nearly automatic segmentation of hippocampal subfields in in vivo focal T2-weighted MRI,” Neuroimage, vol. 53, no. 4, pp. 1208–1224, 2010.
  3. R. V. de Wael, S. Lariviere, B. Caldairou, S-J Hong. D. S. Margulies, E. Jefferies, A. Bernasconi, J. Smallwood, N. Bernasconi, B. C. Bernhardt, “Anatomical and microstructural determinants of hippocampal subfield functional connectome embedding,” Proceedings of the National Academy of Sciences USA, vol. 115, no. 40, pp. 10154-10159, 2018.
  4. M. Lepage, R. Habib, and E. Tulving, “Hippocampal PET activations of memory encoding and retrieval: The HIPER model,” Hippocampus, vol. 8, no. 4, pp. 313– 322, 1998.
  5. J. Spaniol, P. S. R. Davidson, A. S. N. Kim, H. Han, M. Moscovitch, and C. L. Grady, “Event-related fMRI studies of episodic encoding and retrieval: Meta- analyses using activation likelihood estimation,” Neuropsychologia, vol. 47, no. 8– 9. pp. 1765–1779, 2009.
  6. L. Nadel, S. Hoscheidt, and L. R. Ryan, “Spatial cognition and the hippocampus: the anterior-posterior axis.,” J. Cogn. Neurosci., vol. 25, no. 1, pp. 22–28, 2013.
  7. O. Baumann and J. B. Mattingley, “Dissociable representations of environmental size and complexity in the human hippocampus.,” J. Neurosci., vol. 33, no. 25, pp. 10526–10533, 2013.
  8. H. Kim, “Encoding and retrieval along the long axis of the hippocampus and their relationships with dorsal attention and default mode networks: The HERNET model,” Hippocampus, vol. 25, no. 4, pp. 500–510, 2015.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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