医療従事者・研究者用ノート

動脈スピンラベル法を用いた安静時機能的磁気共鳴画像

安静時機能的結合を測定するためには、エコープラナー法で測定されるBOLD信号または、動脈スピンラベル法で測定される脳血流量のどちらかの指標が必要である。

本日は、動脈スピンラベル法を用いた安静時機能的結合に及ぼす撮像時間の影響を検証した研究を紹介します。

タイトル:The effect of acquisition duration on cerebral blood flow- based resting-state functional connectivity

著者:Nakamura Y, Uematsu A, Okanoya K, Koike S

雑誌:Hum Brain Mapp. 2022:1-11

背景

脳内ネットワークは、統計的に依存した低周波(0.1Hz以下)の時間的な活動変動を持つ、広く分布した脳領域から構成されている1)。脳の機能構造は、安静時機能的磁気共鳴画像法(rs-fMRI)により測定することができる。rs-fMRIは実験が単純であるため、データの収集や共有が容易であり、バイオマーカー開発に利用されることも多い2)。小児、高齢者、認知障害者でも実施可能であり、神経画像研究に不可欠な技術となっている。

rs-fMRI研究では、安静時機能的結合度(rs-FC)を測定するために、2つの神経活動の指標を使用する。1つは、エコープラナー法で測定されるBOLD信号、もう1つは、動脈スピンラベル法(ASL)で測定される脳血流(CBF)である。

BOLD信号は、脳血流と血液酸素濃度の局所的な変化によって引き起こされるオキシヘモグロビンの変化を反映しており、この変化は神経-血管連関によって基礎となる神経活動に結合される3)。CBFは動脈の内因性トレーサーとして測定され、グルコース代謝と神経活動を反映している4)

rs-fMRIの測定では、CBFは時間分解能が低いこともあり、主にBOLD信号が用いられている。しかし、CBFもいくつかの利点がある。

第一にCBFは、神経活動だけでなく、神経伝達物質に関連する脳代謝も表している5)

第二に、CBFを計算するために使用される処理方法のため、BOLDベースのrs-fMRIにおけるノイズの主要な原因の1つである低周波の影響を最小限に抑えることができ、CBFベースのrs-fMRIは測定時間が長い実験に理想的である。

第三に、CBFはBOLD信号と比較して、磁場不均一効果や信号損失に対する感度が低い6)

第四に、CBFは血管床によく局在している7)

これらの利点からCBFベースのrs-fMRIは、測定時間が長い研究や脳代謝を調べることを目的とした研究において、BOLD信号ベースのrs-fMRIの代替となりうる。

しかし、BOLD信号ベースのrs-fMRIの場合と異なり、撮像時間の影響については十分に検証されていない。

本研究の目的は、CBFを用いたrs-fMRIに及ぼす撮像時間の影響を検証した。

方法

・19名の参加者が合計50分間のCBF撮像を行った。

・全脳および13の大規模脳内ネットワークにおけるCBF-based 安静時機能的結合のばらつきを、Levene’s検定を用いて50分の撮像時間と比較した。

結果

・どの時間帯においても、CBF-based 安静時機能的結合の分散は50分と変わらなかった。

・各脳内ネットワーク内での安静時機能的結合の分散については、CBFベースの安静時機能的結合の信頼性の高い推定値を得るために必要な撮像時間は10分未満であり、脳内ネットワーク間で差が見られた。

まとめ

・本研究では、脳血流(CBF)を用いたrs-fMRIに及ぼす撮像時間の影響を検証した。

・CBFを用いたrs-fMRIを推定するためには、少なくとも10分間のデータ取得が必要であることがわかった。

参考文献

  1. Buckner, R. L. (2010). Human functional connectivity: New tools, unresolved questions. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 107, 10769–10770.
  2. Van Essen, D. C., Ugurbil, K., Auerbach, E., Barch, D., TEJ, B., Bucholz, R., WU-Minn HCP Consortium. (2012). The human connectome project: A data acquisition perspective. NeuroImage, 62, 2222–2231.
  3. Hillman, E. M. C. (2014). Coupling mechanism and significance of the BOLD signal: A status report. Annual Review of Neuroscience, 37, 161–181.
  4. Williams, D. S., Detre, J. A., Leigh, J. S., & Koretsky, A. P. (1992). Magnetic resonance imaging of perfusion using spin inversion of arterial water. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 89, 212–216.
  5. Dukart, J., Holiga, Š., Chatham, C., Hawkins, P., Forsyth, A., McMillan, R., Sambataro, F. (2018). Cerebral blood flow predicts differential neuro-transmitter activity. Scientific Reports, 8, 4074.
  6. Chen, J. J., Jann, K., &Wang, D. J. J. (2015). Characterizing resting-state brain function using arterial spin labeling. Brain Connectivity, 5,527–542.
  7. Liu, T. T., & Brown, G. G. (2007). Measurement of cerebral perfusion with arterial spin labeling: Part 1. Methods. Journal of the International Neu- ropsychological Society, 13, 517–525.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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