医療従事者・研究者用ノート / 一般向けノート

筋力トレーニングの健康への影響

本日は、筋力トレーニングのやり過ぎは、逆に死亡率、心血管疾患、癌のリスクを高める可能性があることを調べたレビュー論文を紹介します。

タイトル:Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies.

著者:Momma H, Kawakami R, Honda T and Sawada S.

雑誌:Bjsports. 2022:105061.

https://bjsm.bmj.com/content/early/2022/01/19/bjsports-2021-105061

背景

国内および国際的な身体活動ガイドラインによると成人に定期的な筋力トレーニングを推奨している1-3)。例えば、WHOのガイドラインでは、成人は週に2回以上の筋力トレーニングを行うことを推奨している4)。筋力トレーニングを定期的に行うことで、骨格筋の強度が増加または維持される3)。このことは、死亡率および心疾患や脳血管障害、癌などの非感染性疾患のリスク軽減になることが明らかになっている5,6)

しかし、筋力トレーニングは有酸素運動と比較して、早期死亡や心血管疾患、非感染性疾患の予防に与える影響についてあまり研究されていない。

そこで、本研究では18歳以上の成人における筋力トレーニングと死亡および心血管疾患、非感染性疾患のリスクに関する研究の系統的レビューとメタ解析を実施した。

有酸素運動とは別に筋力トレーニングを行った場合と行わなかった場合の健康効果を検証するとともに、筋力トレーニングと健康との関係性を定量的に評価した。また、筋力トレーニングと有酸素運動の併用が健康に与える影響についても着目した。

方法

・前向きコホート研究の系統的レビューとメタ分析である。

・MEDLINEとEmbaseの創刊から2021年6月までの論文を検索し、関連する全論文を対象とした。

・対象は、重篤な疾患のない18歳以上の成人に対して、筋力トレーニングと健康との関連性を検証している論文とした。

結果

・16件の論文が適格基準を満たした。

・筋力トレーニングは、死亡率、心血管疾患、癌(特に肺癌)、糖尿病のリスクを10〜17%低下させる。しかし、大腸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌に関しては、筋力トレーニングとの関連はあまりみられなかった。

・死亡率、心血管疾患、癌は週30〜60分の筋力トレーニングの範囲で最もリスクが低く(約10~20%)、糖尿病は実施時間が長ければ長いほどリスクが低かった。

・しかし、週130〜140分を超えると、死亡率、心血管疾患、癌に対する筋力トレーニングの効果は認められなくなり、逆にこれらの疾患のリスクになることが明らかになった。

まとめ

・本研究では、筋力トレーニングが健康に及ぼす影響をレビューとメタ解析した。

・週30〜60分の筋力トレーニングでは、死亡率、心血管疾患、癌のリスクは低値となった。しかし、週130〜140分を超えると、逆にこれらの疾患のリスクは高値となった。そのため、週2回程度の筋力トレーニングは推奨されるが、それ以上になると注意が必要である。

・ただ、今回の対象となった研究論文が少なく(16件)、筋力トレーニングの頻度を直接調べることが困難であったため解釈には慎重に議論すべきである。そのため、エビデンスの確実性を高めるためには、より多くの集団に焦点を当てた研究が必要となってくる。

参考文献

  1. UK Department of Health and Social Care. Physical activity guidelines in the UK: review and recommendations, 2011. Available: https://assets.publishing.service.gov. uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/833148/dh_128255. 
  2. Australia Department of Health. Make your move – sit less, be active for life – adults (18 to 64 years), 2014. Available: https://www.health.gov.au/sites/default/files/ documents/2021/03/make-your-move-sit-less-be-active-for-life-adults-18-to-64-years.
  3. US Department of Health and Human Services. Physical activity guidelines for Americans. 2nd ed. US Department of Health and Human Services, 2018. https:// health.gov/sites/default/files/2019-09/Physical_Activity_Guidelines_2nd_edition.
  4. Bull FC, Al- Ansari SS, Biddle S, et al. World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Br J Sports Med 2020;54:1451–62.
  5. García- Hermoso A, Cavero- Redondo I, Ramírez- Vélez R, et al. Muscular strength as a predictor of all- cause mortality in an apparently healthy population: a systematic review and meta- analysis of data from approximately 2 million men and women. Arch Phys Med Rehabil 2018;99:2100–13.
  6. Wu Y, Wang W, Liu T, et al. Association of grip strength with risk of all- cause mortality, cardiovascular diseases, and cancer in community- dwelling populations: a meta- analysis of prospective cohort studies. J Am Med Dir Assoc 2017;18:551.e17–551. e35.

投稿者

kengo.brain.science@gmail.com

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